【結論】市場規模の推定と価格設定についての回答例がわかる
ケース例題2:われわれのクライアントである大手製薬会社が、薄毛に悩む人の治療薬をか開発した。この治療薬はIPP2と呼ばれる錠剤であり、錠剤を服用してから3ヶ月以内で、15歳と同じくらいまで髪の毛がふさふさに生えてくるというものである。一度生えた髪の毛の量を維持するためにはIPP2を毎日1回服用する必要がある。この治療薬に対する日本国内の市場規模を推定するとともに、どのような価格設定を行えば良いか考えて欲しい。
【ケース回答例】
問題の内容と目的を確認させて下さい。クライアントはIPP2と呼ばれる錠剤タイプの薄毛治療薬を開発した大手製薬企業であり、IPP2を服用すれば15歳当時と同じくらいの髪の毛が生えてきて、その髪の毛の量を維持するためには、毎日一回の服用が必要だということですね。そして、クライアントがわれわれに望んでいるのは、IPP2に対する日本国内の市場規模を推定することと、どのような価格設定を行えば良いかを提案することの2点ですね?
ーはい、その通りです。
市場規模の推定と価格戦略の立案以外に、私が頭に入れておくべきクライアントの目的はありますか?
ー利益を上げることです。クライアントはIPP2で莫大な利益を得ることを望んでいます。
目標とするマーケットシェアについてはどうでしょうか?
ークライアントは、マーケットシェアを獲得するよりも、より多くの利益を上げることの方に強い関心があります。それに適切な価格設定を行えば、マーケットシェアは自然とついてくるものです。
市場規模の推定に取り掛かる前に、いくつか質問したいと思います。
ーどうぞ。
この錠剤は、男性、女性を問わず服用できるものですか?
ーはい。
保険は適用されますか?
ーいいえ、保険は適応されません。
薬の購入には処方箋が必要ですか?それとも、誰でも店頭で買えるものでしょうか?
ー購入の際には意思の処方箋が必要となります。
この錠剤には副作用はありますか?
ーはい。錠剤を服用することによって、男性の2%は性的不全に陥ってしまいます。また、胎児に影響を与える可能性があるので、将来的に子供を産むことを考えている女性は、この薬を服用すべきではありません。
男性に関しては、服用の躊躇するまでも副作用はないと思いますが、40歳以下の女性はこの薬を服用しないと考えたほうが良いですね。もちろん、40歳を超えてから出産する人もいれば、40歳以下でも子供を産まないと決めている人もいるでしょうが、いずれも少数派であると考えられるので、問題を単純化するために40歳以下の女性は顧客対象に含まれないと仮定します。では、市場規模の推定に入りたいと思います。
まず、日本の総人口を120百万人、平均寿命を80歳と仮定します。さらに、どの年齢層をとっても人口数は同じであり、男女の比率は50:50であるという仮定も置きます。総人口を20歳ごとの世代別、男女別に分解すると、各世代の人口は120÷4=30百万人となり、男性と女性の数はそれぞれ15百万人となります。男性・女性ともに、歳をとっていくにつれて髪の毛が薄い人の比率が高くなることを考えると、次のような表が作成されます。
1〜20歳までの男性と女性に関しては、いずれもIPP2のターゲット顧客に当てはまらないと仮定します。21〜40歳までの世代では、男性の20%が薄毛に悩んでいると仮定し、女性に関しては、20歳以下の世代と同様、IPP2を必要とする顧客は存在しないと仮定します。41〜60歳の世代では、薄毛に悩む人の割合が増加して、男性の40%、女性の1%が、最後の61〜80歳の世代では、男性の60%、女性の10%がターゲット顧客に当てはまると仮定します。
以上を合計すると潜在的な顧客層は19.7百万人、およそ20百万人になります。しかし、私はこの数字をそのまま市場規模と考えるのではなく、ここから1/3強に当たる7百万人を差し引く必要があると考えます。薄毛の人の中には自ら好んで髪の毛を剃り上げる人もいれば、そもそも薄毛であることを気にしない人や、治療薬を購入する経済的な余裕がない人も存在するからです。
したがって、IPP2に対する日本国内の市場規模は、約13百万人であると推定します。
ー良いでしょう。続けて下さい。
次に、IPP2の価値を決める必要があると思いますが、3つの異なるアプローチで考えます。3羽のアプローチとは、①競合品との比較による価格設定、②コストベースの価格設定、③価値ベースの価格設定です。
まず、クライアントの競合先と、各競合品がいくらで販売されているかを教えていただけますか?
ー競合先は2社存在しており、そのうち1社は液体タイプの商品を6000円で、もう1社は錠剤タイプの商品を5000円で販売しています。これらの商品は、いずれも1ヶ月分の服用量を含んでいます。
IPP2の効能は、他社の製品と比較してどうでしょうか?
ーIPP2は、他社製品比で3倍の効果を発揮します。つまり、競合品に比べて生える髪の毛の量が3倍多く、毛が生えそろうスピードも3倍速いというものです。
直接的な競合品の他に、IPP2と同等の効能を持つ代替品は存在しますか?
ーいいえ、代替品は存在しません。
既に販売されている競合品に対する顧客ロイヤリティはどの程度強いものでしょうか?
ーこれら2つの商品の効能はほとんど変わらず、顧客がどちらの商品を選ぶかは、液体タイプと錠剤タイプのどちらを好むかによってい決まっているといったところです。
わかりました。つぎに、コストベースの価格について検討したいと思います。1ヶ月分の服用量に相当するIPP2の製造コスト、梱包コスト、販売コストは合計でどのくらいになりますでしょうか?また、IPP2の研究開発(R&D)には、どれくらいのコストがかかったでしょうか?
ー実際のところ、IPP2は他の病気の治療薬をテストしていた時に偶然発見されたものなので、研究開発費はほとんどかかっておりません。また、1ヶ月分の服用量に相当するIPP2のコストは、製造、梱包、販売その他を全て含めて100円です。
たったの100円ですか?それはすごいですね。トータルコストはわずか100円であり、研究開発費もほとんどかかっていないとすれば、コストベースの価格設定については深く考える必要がありません。仮に販売価格を200円にしたとしても、100%のマージンが得られます。
最後に、価値ベースの価格設定については、IPP2に対するマーケットの需要の強さを考慮する必要があります。つまり、薄毛に悩む人は、髪の毛の量が増えることに対して、いくらまで支払う意思があるかということです。現在、彼らは既存の競合品に対して、毎月5000円から6000円を支払っていますが、IPP2は競合品に比べて3倍の効果を発揮します。ということは、単純な計算で言えば、彼らはIPP2に対して、月当たり15000円から18000円を支払う意思があると考えられます。ここまでの分析をまとめると、IPP2の販売戦略は200円から18000円までの範囲に収まると考えられるでしょう。IPP2のトータルコストが100円なので販売か買うが200円の場合でも100%のマージンがあり、販売価格を18000円にした場合のマージンは17900%にもなります。
ー17900%のマージンであれば、満足できますか?
文句のつけようがない数字ですが、これはあくまで本当に顧客が18000円を支払う場合の話です。IPP2はHIVの薬と違って、人の生死に関わる薬ではなく、純粋に美容のための薬品です。そのような性質を考えると、私は顧客が月に18000円もの大金を実際に支払うかどうか、確信が持てません。
ーでは、どうすれば良いでしょうか?
私たちが日常生活で消費する品目との比較で考えると方法が適切だと思います。例えば、毎朝スターバックスのコーヒーを1杯飲む人は、1日あたり約300円を支払っております。薄毛で悩む人にとって、IPP2はスターバックスのコーヒー1杯分と同様以上の価値があるか?私は個人的に、この質問に対する答えはYESだと思います。
ーつまり、1ヶ月分のIPP2を9000円(300円×30日)で販売するということですか?
販売価格として妥当な金額だと思います。クライアントの目的は、より大きなマーケットシェアを獲得することではなく、利益を最大にすることです。もし、クライアントの目的がマーケットシェアを最大にすることであれば、私はIPP2の販売価格を競合品より低い4000円に設定して莫大なシェアを獲得し、顧客のロイヤルティが高まった段階で価格を釣り上げるという方法も考えます。これは実際に、1930年代に米国のスタンダード・オイルがガソリンの値段に対して行った方法です。しかし、私はクライアントがこの方法をとる必要はないと感じます。IPP2が競合品と比較して本当に3倍もの効果を発揮するのであれば、メディアが大々的に取り上げて、すぐに競合品をマーケットから追い出すことになるでしょう。
販売戦略に関して、最後に1つ補足しておきたいと思います。仮に、現在の顧客の大部分が液体タイプの薬品を好んで選んでいるということであれば、クライアントはマーケティング活動を通じて、これらの顧客が錠剤タイプの薬品に乗り換えるように、かなりの努力を費やさなければならないでしょう。ただし、いくら大々的なマーケティングを行っても、決して錠剤タイプの薬品を選ばない人が中に入ることも認識しておく必要があります。
以上、回答例となります。
今回は、ケースのタイプ的には、マーケティング・サイジング、価格戦略シナリオでした。
前半の市場規模の推定に対しては、顧客を世代別・男女別に分けて考えることでうまく対処しています。また、後半の価格設定については、3つのアプローチ全てについて触れた上で、そのうち1つ(コストベースの価格設定)については、あまり深く考える必要はないことをすぐに指摘しており、全体的に良い回答であると言えます。
それでは。
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引用・編集:『戦略コンサルティングファームの面接試験 難関突破のための傾向と対策』
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