【結論】ピザ・レストランの買収計画についての回答例がわかる。
ケース例題25:ある大手レンタルビデオ会社が、米国全土にチェーン店を持つピザ・レストラン(P社)の買収を検討している。この買収を実行すべきか否かの意思決定を下すにあたっては、どのような要素を考慮することが重要だろうか?
【ケース回答例】
問題の内容を確認させてください。クライアントは、TSUTAYAのような大手レンタルビデオ会社であり、全国にチェーン店を持つピザ・レストランP社の買収を検討していると言う事ですね。そして、私に求められているのは、この買収を実行すべきか否かの意思決定を行うにあたって、どのような要素を考慮することが重要なのかを示す事ですね。
私からいくつか質問させてください。まず、クライエントがこの買収を行う目的は何でしょうか?
ーあなた自身は、何だと思いますか?
いくつかの目的が考えられます。例えば、①利益を伸ばすため、②流通チャネルを拡大するため、③買収先の企業を自社に取り込むことによって、市場参入後の競争激化を避けるため、④財務面や販売面でのシナジー効果を発揮するため、などが挙げられます。
ーそれらが全て当てはまると思っていただいて結構です。
自分の考えをメモにまとめるための時間をいただいてもよろしいですか?
ーどうぞ。
P社は、全国にいくつの店舗を持っているのですか?
ー約600店舗です。
それらの店舗は、主にどのような地域に立地していますか?
ー大部分の店舗が、各地方の大都市とその近郊に立地しています。
P社は、それらの店舗を自社で所有しているんですか?それとも、フランチャイズ形式を採用したのでしょうか?
ー全店舗自社で保有しています。
ピザ・レストラン業界における主要企業の顔ぶれ、各社のマーケットシェアはどうなっていますか?また、P社のシェアはどれくらいですか?
ーシェアの大きい順に、ピザハットが46%、ドミノピザが21%、リトルシーザーが13%、パパジョーンズが5%で、P社のシェアを3%です。残り12%のシェアは、単独では大きなシェアを持たない小規模経営のピザ・レストランが合計されたものです。
ピザ・レストラン業界の状況について、他にも何か情報ありますか?
ーもちろんありますが、あなたは具体的にどんなことを知りたいんですか?私が手元に持っている情報を列挙すると、米国内では1秒に350枚のピザが食べられていて年間市場規模は330億ドルであると言うことや、あらゆる種類のレストランのうち、ピザ・レストランは全体の20%を占めていること、米国人の93%は毎月少なくとも1枚以上のピザを食べていることなどです。また、ピザ・レストランの市場は、レストラン全体の市場よりも高い成長率で今後も伸び続けることが予想されています。この中に、何か役立つ情報ありましたか?
はい、特に、最後の成長率に関する情報が役立ちました。
ーそれはなぜですか?この情報で、あなたは何がわかったのですか?
私がわかったのは、ピザ・レストランが非常に競争の激しい業界であり、今後もそうであり続けるだろうと言うことです。この問題で私に求められているのは、買収実行にあたって考慮すべき重要な要素を指摘することですが、その第一に挙げられるのは、市場の競争状況です。業界全体の市場規模が330億ドルで、P社のマーケットシェアは3%ですから、売上高は約10億ドルです。クライアントがピザ・レストラン市場への参入を本気で検討するのであれば、自社で全てを構築する自力参入ではなく、既存他社の買収による参入が唯一効率的な方法だと思います。これほど競争が厳しい状況では、自社の事業を他社と差別化することが困難ですし、ブランド力の構築、好立地の取得、新店舗の建築、経営陣と営業スタッフの雇用・教育を全て自社で行おうとすれば、かなりの時間を要してしまいます。
ーそれこそまさに、クライアントがP社の買収による市場参入を企てている理由です。何か新しいポイントを加えてください。
クライアントは長年小売業を営んできたので、本質的な意味からすれば、この買収は全く異質の事業に参入するわけではありません。クライアントもP社も個人消費者を主要顧客としている点では同じです。したがって、この買収はシナジー効果を発揮できる部分がかなりあり、広告宣伝方法も重複している部分が多いと思われます。買収実施後に、いくつかの店舗を統合する余地もあるでしょう。つまり、1つの店舗でピザを売ると同時に、DVDのレンタルを行うと言うことです。顧客はピザを注文してから、それが出来上がるまでの間に、店内で借りたいDVDを選ぶことができます。
ー良い案ですね。他には何かありますか?
買収資金の調達については、全て自己資金で賄うのでしょうか?それとも、銀行から新たに追加融資を受けるのでしょうか?
ー資金調達は、自己資金と銀行借入金が半々となる予定です。ところで、あなたはなぜ、クライアントのピザ・レストラン事業への参入がうまくいくと思うのですか?
クライアントはこれまでの香里ビジネスで培った経験を生かして、ピザ・レストランの事業より客観的な目で見ることができると思います。例えば、今後増やす店舗にフランチャイズ形式を活用することも検討可能でしょうし、景気が良くなったら、一度自社内に取り込んだピザ・レストランの事業部門を再度分社化して、IPO (新規株式上場)を行うと言う考えも可能です。
ところで、P社は儲かっているんでしょうか?過去5年間の利益は、どうなっていますか?
ーP社の純利益は、過去5年減少傾向にあります。5年前は5億ドルの売上高に対して1億ドルの純利益を計上していましたが、今年度は売上高10億ドルに対して純利益は30,000,000ドルでした。
利益率が20%から3%まで落ちていると言う事ですね。P社の利益率が大幅に低下している原因は何でしょうか?
ーあなたは、なぜだと思いますか?
P社の売上高が過去5年間で倍増しているのは、新規出店を積極的に進めたためだと思われます。P社は店舗数の拡大に多額の投資を行ってきた結果、店舗の原価償却費・維持費や、借入金に対する支払い金利等の負担が大きく増えたのではないでしょうか。
今はP社の全店舗を対象として、各店舗の黒字額と赤字額を細かく見直さなければならないと思います。特に、赤字となっている店舗は重点的な分析を行って問題点の修正を図り、もし半年以内に黒字回復しないようであれば、店舗を閉鎖することも考えます。
ー他には何かありますか?
次に、P社ノーコスト項目を分析します。各コスト金額の増減推移を見て、異常な増加を示していることがないか調べます。例えば、土地代を高く払いすぎていないか、人件費が急増していないか、コスト削減につながるような技術を導入する事は可能かといったことを調べて、ピザの品質を落とさずにコストを削減できる方法がないかを模索します。また、優れた業績をあげている競合のコスト構造と、P社のコスト構造を比較するベンチマーク分析も行うつもりです。
ー分りました。議論が進むにつれて、あなたの印象はだんだんよくなっているのですが、まだあなたの回答は平均の域に過ぎないというのが率直な感想です。ここで議論の全体をうまくまとめることができれば、私はあなたを次の面接に呼ぼうと思います。
ピザ・レストランは成長産業です。市場規模が巨大な一方で、競争が非常に厳しい業界でもあります。クライアントがこの業界に参入すべきか否かの合理的判断は、クライアントの利益が今よりも増加するかどうかによって決まると言えるでしょう。
まず、私たちは売り上げの面から分析を行う必要があります。P社を買収することによって、新たにできることがあるか、どのような方法で売上高を伸ばすことができるか、売上高を構成要素別に分けた場合、各要素は売り上げ全体の何%を占めているか、各要素の構成比に異常な偏りがないか、各要素の構成比に最近大きな変化が見られないか、もし大きく変化しているとすれば、その原因は何かといった点を調べることになるでしょう。
次に、コスト面に関する詳細な分析を行います。異常なコストはないか、コスト削減につながる新しい技術はないか、人件費や原材料費などに大きな変化は見られないか、業務プロセスの合理化によって、コスト削減を図ることができないかといった点を調べます。
第3に、各店舗の分析を行います。ここでは、不採算店舗を切り捨てる一方、新しい店舗用地を探します。利益は(価格−コスト) ×販売量と言う式で表されますので、利益を増やすために、どうすれば販売量を伸ばすことができるかを検討します。具体的には、①店舗を増やして新しい地域に進出する、②マーケティングキャンペーンを強化する、③値下げを行って、より多くの顧客を呼び込む、④顧客がリピーターとなってくれるように、カスタマーサービスを改善する、といった手段が考えられます。
ー分りました。問題の質問に戻ってください。
クライアントの意思決定にあたって考慮すべき重要な要素は何かと言う事ですね。例えば、P社の買収価格は妥当か、もし景気悪化しても、借入金の返済が可能な金額の範囲内に収まっているか、P社のブランド力はどうか、クライアントによる買収後も、そのブランド力を活かせるか、コスト削減を図りつつ、同時に売り上げを伸ばしてことができるか、クライアントとP社の双方にとって利益となるようなシナジーが存在するかといった点が挙げられます。そして最後に、買収実行後の統合プロセスで重要となる要素についても、あらかじめ考慮しておく必要があります。具体的には、企業文化の違い、両者の戦略の適合性(戦略的フィット)、買収が期待通りにうまくいかなかった場合の出口戦略等です。
ーそれで終わりですか?それが、全力を尽くした結果の答えですか?
この限られた時間の中では、そういうことになります。もう少し時間と情報があれば、もっとうまく回答できるのですが。
ーわかりました。結構です。
以上、回答例になります。
今回は、ケースのタイプ的には、ファクター問題、M&Aシナリオ、新規市場参入シナリオ、利益増加シナリオでした。
それでは。
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引用・編集:『戦略コンサルティングファームの面接試験 難関突破のための傾向と対策』
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