【結論】CVS事業への新規参入についての回答例がわかる。
ケース例題21:我々のクライアントは、テキサス州を拠点とする大手食料品チェーンである。彼らの店舗は、ダラス、アーリントン、フォートワース、ヒューストン、オースティン、サンアントニオ、エルパソといった、州内主要都市の郊外地域に集中して立地している。クライアントは、自社の成長戦略模索しているものの、テキサス州以外での事業展開を考えていない。また、彼らは郊外地域の食料品チェーン店がもはや飽和状態にあると感じているが、都市部への新規出店は行わない方針を決めている。
クライアントは、すでにインターネット上タッチ配送サービスを行っており、コンビニエンスストア(CVS)事業へ参入することを検討している。あなたは、これが良い案だと思うか?もしそうであるならば、クライアントはどのような方法でCVS市場に参入するのが最善策だろうか?
【ケース回答例】
問題の内容を確認させてください。テキサス州に拠点を持つ大手食料品チェーンがCVS市場への参入を検討しており、私はこれが果たして良い案なのかどうかを分析し、もしそうであるならば、どのような方法で市場に参入するのが最善なのかを考えなければならないと言う事ですね?
ーその通りです。
このほかに、私が留意しておかなければならない目的はありますか?
ーいいえ、ありません。
まず、なぜクライアントが事業規模の成長を望んでいるのかを理解した後で、現在のCVS市場がどのような状況にあるかを分析し、市場への参入方法を検討すると言う流れになると思いますが、いかがでしょうか?
ー良いと思います。私ならば異なるプロセスを踏むと思いますが、あなたのやり方を見てみましょう。
クライアントが事業規模の拡大を望んでCVS市場への参入を検討している背景には、次の4つの理由があると推測されます。①手元に余剰のキャッシュがあり、これを金融市場への投資に回すよりも、に高いリターンが得られると考えたため、②テキサス州内での食料品市場全般のシェアを伸ばしたいため、③売上高の低迷やコストの上昇などが原因で、既存ビジネスが縮小傾向にある、④CVS市場が、成長率の高い有望なマーケットだと考えているため、と言うのが、その理由です。
ー①、②、④が正しい理由です。
CVSの市場には、すぐに名前が思いつくだけでも、セブンイレブン、クリスティーズ、デアリーマーケット、ホワイトヘン、レッドアップルなど、多数の競合企業が存在しています。CVS市場におけるシェアの状況教えていただけますか?
ーセブンイレブンがトップシェアを誇っており、昨年度の売上高は30億ドル強となっています。これには、店舗内での商品販売のほかに、ガソリンの販売も含まれています。具体的なマーケットシェアの数字は分かりません。
セブンイレブンの店舗数はいくつあるのでしょうか?
ー米国とカナダに約58,000店舗構えています。ただ、このケースは関係ない数字だと思いますが。
おっしゃる通りです。適切な質問は、テキサス州には全部で何店舗のCVSがあり、そのうち、セブンイレブンの店舗数はいくつかといったものですね。
ーその通りです。しかし、残念ながら、私はその情報を持っていません。
CVSの市場には、これといった参入障壁はないと思うので、これは重要な要素ではありません。
ーでは、何が重要だと思いますか?
クライアントの既存チェーン店には相応のブランド知名度があると思われるので、これを新規市場にも生かすことと、これ以外にもクライアントが現在持っている競争優位を活用することが重要です。クライアントとセブンイレブンが扱う商品はほとんど変わらないにもかかわらず、なぜ顧客はクライアントの店舗で購入するのかを考えなくてはなりません。重要なポイントとして私がすぐに思いつくのは、店舗の立地、商品の値段、ブランド・ロイヤルティの3つです。
ー良い意見ですね。もうちょっと詳しく説明してください。
まず、店舗の立地についてですが、これを検討するにあたっては、どのような方法で市場に参入するか?と言う質問にも絡んできます。新規市場への参入方法には、①自社で全てを構築する自力参入、②既存企業の買収による参入、③他社との戦略的提携による参入の3つの方法があります。
ークライアントは、他者との戦略的提携は考えていません。
参入方法の選択については、もう少し後の段階で考えます。まず調べる必要があるのは、不動産市場の状況と購入可能な店舗候補の場所です。また、比較的小規模な施設CSVチェーンで、立地が良い場所に店舗を構えていながら、経営がうまくいってない企業を場所として検討する必要もあると思います。
ー他には何かありますか?
次は商品の値段に関する点です。これは、クライアントの強みが最も活かせるところだと思います。一般的に、CVSは多数の商品を少量ずつ揃えるので仕入れ値が高くなりがちであり、その結果、消費者への販売価格も高くなります。クライアントの強みの1つは、既存の食料品チェーン店で商品の大量購入を行っているので、CVSにも規模の経済が活かせると言うことです。クライアントは、現在のバリューチェーンを最大限活用する必要があります。
ーそれは、具体的にどういう意味ですか?
正直に申し上げると、私自身、はっきりとは分りません。
ーちょっと待ってください。あなた自身が理解していないビジネス用語は決して使わないでください。もしあなたがインタビューでそのようなことをするならば、クライアントの前で同じことをするだろうと私は考えています。そんなコンサルタントにクライアントを任せる事はできないので、我々面接官は、そのような面接者に対する信用をすぐに失います。ここまでのところ、あなたの回答はなかなか良い感じで進んでいましたし、私自身、あなたに好印象を抱いているので、先ほどの発言は聞かなかったことにしておきましょう。その前に戻って続けてください。私たちはどこまで議論を進めていましたか?
私たちが議論していたのは、商品の値段についてです。CVSで売る商品の値段を、既存の食料チェーン店で販売している価格と、競合のCVSで販売している価格の間に設定すれば、店舗に顧客を呼び込むことができます。例えば1ガロンの牛乳を食料千円で買えば3ドルですが同じものを通常のCVSでは4ドルで販売しており、顧客は1ドル多く支払わなければなりません。仮に、クライアントがCVSでの販売価格を3.5ドルに設定すれば、顧客を呼び込むに十分な差額が生じます。また、クライアントは他の大手食料品店と同様に、プライベートブランド商品、例えば、自社ブランドのピーナツバターなどを取り扱っていると思います。これらのプライベートブランド商品は、一般の商品よりもかなり価格が安いので、これをCVSでも販売すれば、値段の差はますます大きくなります。さらに、クライアントはCVSが通常扱っている商品に加えて、サラダバーや、調理済みの高級グルメ食材などを販売することも可能です。これにより、人々が一般的に抱いているCVSのイメージをガラッと変えることができるでしょう。
ー続けてください。
クライアントが持つ経営資源を考えてみましょう。クライアントは商品の大量購入を行うことができ、有能な経営陣、強固な営業組織、充分訓練された従業員、高いブランド認知度、既存のチェーン店展開を通して築いた独自の流通チャネル、などといった経営資源を保有しています。既存チェーン店での販売価格はCVSよりかなり安いので、家にはレーションが起きる心配はないでしょう。それどころか、既存チェーン店の顧客に対して、クライアント系列のCVSでのみ利用可能なクーポン発行し、彼らのCVSに読み込むと言うクロスマーケティングも考えられます。
最後に触れるべき点は、ブランド・ロイヤリティーです。クライアントは明らかにテキサス州の地域社会に対する強い愛着心を持ち、地場企業としての社会的責任を果たしているので、高いブランド・ロイヤルティーを享受していると思われます。
ー結構です。あなたの回答をまとめてください。
クライアントが成長戦略の一覧を上げているCVS市場への新規参入は、十分検討に値するべきものだと思います。CVS市場は今後も成長し続けることが見込まれますし、これといった市場の参入障壁もありません。クライアントは、これまで築き上げた高いブランド力や、既存の経営資源をCVS事業にも活かすことができます。また、クライアントは他のCVSよりも安い値段で商品を販売したり、自社ブランド商品の販売、食料品チェーン店とCVSのクロスマーケティング、従来のCVSでは扱っていない新商品の販売といったことが可能です。
CVS市場への参入方法として最も適切なのは、比較的小規模なCVSチェーンで、店舗の立地が良いにもかかわらず、経営がうまくいっていない会社を見つけて買収することです。買収後の名前を変えて、クライアント独自の経営管理方法を導入し、全店舗をクライアントの既存チェーン店とほぼ同じ管理手法で運営します。もし適切な買収相手が見つからなければ、クライアントは自社で全てを構築する自力参入を行うべきです。
そして、改めて強調しておきたいのは、この参入が成功するか否かは、①店舗の立地条件、②価格の差別化、③ブランド・ロイヤルティの3つの要素をいかにうまく組み合わせることができるかにかかっていると言うことです。
ー分りました。非常に良いまとめです。ここで1つ考えてみたいことがあります。当然ながら、クライアントは、売上高を増加させるための新しい方策を常に求めていますが、彼らは現在、既存食料品チェーンの店舗内で銀行サービスを提供することも検討しています。同じ地域内で、このようなサービスを提供している競合は存在していません。
これも先ほどと同様、新規市場への参入に関する問題であり、調べるべき点が多数あります。まず、既存の店舗内に十分なスペースがあるのか、それとも、新たにスペースを作る必要があるのかと言うことを調べなければなりません。また、仮に十分なスペースがあったとしても、もっと有効な活用方法がないかどうかを調べる必要があります。どれくらいのスペースが必要なのでしょうか?
ー銀行サービス用のスペースは十分にあります。具体的には、花屋と同じ位の面積になりますが、既存の店舗内には花屋が既に入っているので、これに活用する事は意味がありません。店舗の解説には改装工事が必要となりますが、それほど大掛かりなものではありません。
次に私たちは、業界内の主要なプレイヤーは誰か、各社のマーケットシェアはどうなっているか、クライアントが提供するサービスは、競合のサービスと比較してどのような違いがあるのか、市場の参入障壁が存在しないか、といった点も検討しなければなりません。
ーあなた自身は、それらの点につきどう思いますか?
競合間の競争は非常に激しく、クライアントが提供するサービスは、競合とさほど差別化されていないのではないかと思います。競争のポイントとなるのは、顧客にとっての便利さです。これさえうまくいけば、銀行サービスの開設によって、食料品チェーン店により多くの顧客を呼び込めるかもしれません。しかし、銀行店舗そのものを開設しなくても、今やATMがあれば、基本的なサービスは大体網羅できます。クライアントはどのような参入方法をとることが最善かを十分検討した上で、この案が本当に理にかなったものかどうかを決める必要があります。
市場への参入方法には、自力による参入、他社の買収による参入、他社との戦略的提携による参入、の3つの方法があります。これら3つのそれぞれについて、どれくらいのコストがかかるのか、どれくらいの収入が期待できるか、参入実行に伴うリスクはあるのかといった点を検討する必要があるでしょう。
それぞれの方法について、簡単なコスト・ベネフィット分析をしてください。
まず、自力による参入は、時間がかかりますし、コストも高くつきます。新組織を運営するためには、銀行業界での実務経験が豊富な人材が足らなければなりません。銀行業営みにあたっては、周囲や政府による規制があるかもしれず、これが参入障壁となってさらに時間がかかる可能性もあります。また、仮にこの案が期待通りにうまくいかなかった場合には、クライアント全体のブランドイメージを傷つけかねないリスクもあります。一方で、クライアントはすでに店舗を所有しているので、家賃は最小限で済みます。主な収入源は銀行取引手数料であり、一部は顧客増による食料品の売上増加からも生じることになるでしょう。しかしながら、以下で述べるように、私はこの案が最善の参入方法だとは思いません。
次に、既存の銀行買収して参入する方法ですが、クライアントは既にある程度の人材、店舗、ブランド認知度を自社自身で有しているので、買収先と重複する資産が多く、買収が高くつく恐れがあります。また、銀行全体のデューデリジェンスを行う事は非常に複雑かつ大変です。買収した銀行のいくつかの支店を他の銀行に売却し、買収のために使った借入金を減らすと言うことも可能かもしれませんが、これはかなり思い切った方法になるでしょう。
最後は、既存銀行との戦略的提携です。私としては、この方法が最もシンプルであり、クライアントの利益やブランドイメージに及ぼすリスクが最も小さいと思います。クライアントは、店舗スペースを提携先の銀行先にリースして、毎月の家賃収入を得ます。ただし、家賃収入の金額は、改築に要する費用を十分カバーする金額でなければなりません。
ーあなたの結論を述べてください。
既存の店舗敷地内に銀行サービスを開設することによって、より多くの顧客が店舗に足を運ぶようになり、収入も増えるとクライアントが考えているのであれば、他の銀行と提携してリスクを最小限に抑え、店舗スペースを銀行にすると言う形で参入することを勧めます。自力による参入と、他の銀行の買収による参入は、コストが高くつき、リスクも大きい方法です。クライアントは銀行業界に関するノウハウがありませんし、もし参入が失敗に終わったら、他事業でのクライアントのブランドイメージをも大きく傷つけてしまうことになりかねません。
以上、回答例になります。
今回は、ケースのタイプ的には、新規市場参入シナリオでした。
それでは。
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引用・編集:『戦略コンサルティングファームの面接試験 難関突破のための傾向と対策』
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