【結論】キューバ市場への新規参入についての回答例がわかる。
ケース例題16:我々のクライアントは、ジャマイカン・バッテリー・エンタープライズ
ところが最近になって、キューバ政府は輸入バッテリーに対する関税を今後10年間で毎年5%ずつ下げていき、10年後には0とすることを発表した。
JBEの役員は、キューバ国内の自動車用バッテリーの市場規模を推定した上で、いつ、どのような方法でキューバ市場に参入すれば良いかについて、あなたのアドバイスを求めている。
【ケース回答例】
問題の内容を確認させてください。クライアントであるJBEの役員は、キューバ国内の自動車用バッテリーの市場規模と、いつ、どのような方法でキューバ市場に参上すればよいかを知りたがっていると言う事ですね。我々が行っている情報としては、現在キューバ政府が輸入バッテリーに対して製造コストと輸入コストの50%を関税として課しているため、CBCが市場を独占しているが、キューバ政府はこの関税を今後10年間で毎年5%ずつ下げていき、10年後には0とすることを決めていると言う事ですね。
ーその通りです。
JBEの目的は、できるだけ大きいシェアと利益を得ることだと思いますが、これ以外に、私が頭に入れておかなければならない目的はありますか?
ーいいえ、ありません。
JBEは、いつまでに、どれだけのシェアを得ることを期待していますか?
ーキューバ市場に参入してから5年以内に、25%のシェアを獲得することを目標としています。
まずは、キューバ国内の自動車用バッテリーの市場規模を推定することから取り組みたいと思います。キューバの人口は10,000,000人くらいでしょうか?
ー実際はもっと多いのですが、ここではその数字を使いましょう。(キューバの人口は2007年で11,200,000人と発表されている。)
キューバ国民の所得水準が低く、自動車を所有しているのは10世帯に1世帯であると仮定します。ここで、キューバの1世帯当たりの平均人数を5人と仮定すると。
ーちょっと待ってください。どうして、1世帯あたりの人数は5人だと思うのですか?
キューバのような国では、1つの家に2世帯の家族が一緒に住んでいるケースが多いと考えました。
ー
分りました。結構です。進めてください。
したがって、キューバの全世帯数は2,000,000世帯であり、自動車を所有している世帯の割合が10分の1だとすると、市場に流通している車の台数は200,000台と言うことになります。また、このほかにタクシー、トラック、公用車が合計で10,000台あると仮定します。
ーと言う事は、全部で21万台ですね。
はい。また、キューバの人は比較的長期間にわたって同じ車に乗り、3年間に1度の頻度でバッテリーを新しく交換する必要があると仮定します。
ー3年に1度ですか?どのような考えに基づいて、その数字が出てきたのですか?
JBEのバッテリーはおそらく5年くらいもつ一方で、キューバは共産主義国であり、かつCBCが市場を独占しているので、バッテリー品質はJBEよりも劣っていると考えました。
ー分りました。続けてください。
以上より、21万台の車が3年に1度バッテリーを交換する必要があります。しかし、ここで2つの点について考慮しなければなりません。まず、先ほど付け加えた10,000台のうち、公用車が半分を占めるとすると、これらの車は輸入品を使わないと考えられるので、21万台から5000台を差し引いて考える必要があります。したがって、車全体の台数は205,000台となり、これを3年で割ると、年間あたりに交換されるバッテリーの数は、約68,000個になります。
次に、この数は長期的には徐々に減っていくと言うことにも注意しなければなりません。なぜなら、JBEのバッテリーは3年ではなく5年持つからです。ただ、これをどうやって計算に入れれば良いかは、すぐには分かりません。
ーそこまで計算する必要はありません。その点を指摘したと言うこと自体が重要です。
JBEが25%のシェアを獲得するとすれば、年間のバッテリー販売数は17,000個になります。
ー良いでしょう。次はどうしますか?
バッテリーの販売価格とコストについて調べます。それぞれについて、JBEとCBCを比較すると、どうなっていますか?
ー販売価格にはそれほどの差がなく、コスト比較が重要となります。CBCはバッテリー1個あたりの製造コストが12ドルであり、その内訳は原材料費が20%、人件費50%、その他の経費が30%です。
ー一方で、JBEの製造コストは1個あたり9ドルであり、内訳は原材料費が20%、人件費が25%、その他の経費が55%です。また、これとは別に、キューバへ輸送するためのコストがバッテリー1個あたり1ドルかかります。
両者のコスト構造を表にしてまとめたいと思います。
この表からわかるように、JBEは製造コストと輸送コストを足した10ドルに対して50%の関税がかかるので、バッテリー1個あたりの合計個数は15ドルとなります。
ここで、JBEのバッテリーがいつになったら価格面でも競争力を持つようになるかを調べる必要があります。5年後には、関税率が50%から25%へと半分に下がります。5年後におけるクライアントの製造コストと輸送コストが計10ドルで変わっていないと仮定すれば、関税は2.5ドルとなり、合計コストは12.5ドルとなります。したがって、単純に価格だけを見れば、クライアントは第6年度中に競争力を持ってキューバ市場に参入できると言うことになります。しかし、JBEのバッテリーの耐用年数は3年ではなく5年であることを非常にうまくアピールできれば、CBCのバッテリーよりも高い値段で販売することも可能であり、この場合は第5年度に参入することにも合理的な根拠を見出せます。
ーちょっとここで視点を変えてみましょう。あなたがJBEではなくCBC側のコンサルタントについた場合、彼らにどのようなアドバイスを与えますか?
まずは、キューバ政府に接触して、関税率の引き下げを考え直してもらうように交渉します。
ーキューバ政府の方針は固まっており、関税率を引き下げる事は変えられません。
では、次になぜCBCの人件費がこれほど高いのかを調べます。
ーあなた自身はなぜだと思いますか?
真っ先に思いつくのは技術的な要因です。おそらく、CBCの機械設備は古いので、製造プロセスが極めて労働集約的になっているのではないでしょうか。
ーそれも理由の1つです。他にはどのような要因が考えられますか?
キューバ共産主義国であり、国民の医療費負担がゼロの国です。しかし、この医療保障負担は隠れたコストとして、あらゆるものやサービスの値段にのしかかってきます。共産主義国ではなくても、カナダのように国民医療制度のコストが高い国は、どうしても物価が高くなります。もし、米ドルに対してカナダドルが高くなれば、カナダ製の商品は、米国の市場からあっという間に締め出されてしまうでしょう。
ーカナダの話は、次の機会にしましょう。議論を先に進めてください。
医療保障コストについては、我々側でなす術はありませんが、生産設備については、機械をアップグレードすることでの対応が可能です。新しい設備を導入することによって、CBEのバッテリーは他国の製品と同等の競争力を持ち、耐用年数を3年から5年程度に延びるでしょう。
ーでは、CBEが新しい機械を導入して、今や他国の製品に劣らない品質のバッテリーを9ドルの製造コストで作れるようになったとしましょう。これによって、マーケットの状況はどう変わりますか?
CBCの製品は品質面、価格面の双方で十分競争力があるので、関税率の引き下げ率がどうなるかといった事は、大した問題ではなくなります。しかしながら、CBCのバッテリーはこれまで品質が低かったので、顧客に対するブランドのイメージの点では問題が残ります。したがって、大々的なマーケティングキャンペーンを行い、CBCのバッテリーは新しく生まれ変わり、品質も世界標準並みになったと言うことをキューバ国民にアピールする必要があります。また、私はCBCのカスタマーサービスや、流通チャネルの整備状況についても調べます。これらの機能は、独占企業においてしばしばおろそかにされがちなものです。
ー良い指摘です。CBCのカスタマーサービスは現在ひどい状況ですし、流通チャネルは首都ハバナとヌエビタスにそれぞれ拠点を持つ本社の大手流通業者のみに限定されています。先ほどあなたは、大々的なマーケティングキャンペーンを行うと言いましたが、これがカスタマーサービスの向上にもつながると仮定しておきましょう。流通チャネルの整備についてはどのような手を打ちますか?
ここでは、2つの仮定をおきたいと思います。1つ目の仮定は、JBEが丘が市場に参入するまで、少なくともあと2年はあると言うものであり、2つ目の仮定は、JBE以外のバッテリー製造メーカーも、JBEとほぼ同じ時期に、同じような戦略を掲げてキューバ市場に参入してくるだろうと言うものです。
ー双方とも妥当な仮定です。続けてください。
まず、私は国中のガソリンスタンドに足を運んで、商品の陳列棚やTシャツを無料で配布するとともに、彼らが支払うバッテリー購入費用の1部をCBCが負担することを約束します。その見返りとして、彼らにはCBCのバッテリーしか販売しないと言う独占契約にサインすることを要求します。ここで1つ質問があります。キューバ政府は、国営のタイヤ製造メーカーを持っているのでしょうか?もし持っているとすれば、その品質はどの程度でしょうか?
ーキューバ政府は国営のタイヤメーカーを持っていますが、その品質はかなり低いです。しかしながら、輸入タイヤに対する関税も、バッテリーと同様徐々に撤廃される方向に向かうので、あなたのアドバイスに基づき、この国営タイヤメーカーも機械設備を一新して、大規模なマーケティングキャンペーンを展開する計画を立てています。
と言うことであれば、CBCはこのタイヤメーカーと協力して、新しいバッテリーとタイヤが同じ場所で購入でき、さらにはそこでオイル交換も出来るようなサービスショップを開設します。外国企業が参入してくる前に、われわれは好立地のポイントを全て押さえてしまうことができるでしょう。
ーここでまた、立場を変えてみましょう。あなたは今、JBE側に立つコンサルタントです。この2年間でCBCは生産設備を一新して、流通チャネルを拡大し、キューバの国営大家メーカーとジョイントベンチャーを設立して大々的なマーケティングキャンペーンを展開してきました。このような状況下で、JBEはキューバ市場に参入すべきでしょうか?もし参入するのであればどのような方法をとるべきでしょうか?
新しい市場に参入する際には、必ず調べなければならない点がいくつかあります。具体的には、主な競合はどこか、各競合のマーケットシェアはどうなっているか、競合の製品は、我々の製品と比較してどのような違いがあるか、市場の参入障壁が存在するかといった点です。
このケースの場合では、競合はCBC 1社であり、100%のシェアを独占しています。2年前まではCBC製のバッテリーの品質はJBEよりも課題をとっていましたが、今ではほとんど差がない状況となっています。また、以前は高い関税率が市場の参入障壁となっていましたが、現在JBEにとって最大の障壁となっているのは、流通チャネルへのアクセスであるように見受けられます。
市場への参入方法には、大きく、①自社で全てを構築する自力参入、②他社の買収による参入、③他社とのジョイントベンチャー設立による参入の3つの方法があります。以下では、それぞれの参入方法について、簡単なコストベネフィット分析をしたいと思います。
まず、自社で全てを構築すると言う方法については、もしJBEが十分な流通チャネルを確保できるのであれば、検討に値する手段となります。しかしながら、CBEが国内のガソリンスタンドを全て抑えていて、立地が良い場所にはタイヤメーカーとの共同サービスショップを開いている状況では、JBEの流通チャネルは極めて限定されてしまいます。また、年間のバッテリー販売数がせいぜい17,000個と言うレベルでは、自社のみでバッテリーショップを開設するために要する投資額に見合わないかもしれません。
次に他社を買収すると言う方法ですが、キューバは共産主義国なので、そもそも買収を実行する機会がほとんどないと言えるでしょう。仮に買収の機会があるとしても、対象企業は必然的にCBCと言うことになりますが、一般的に買収相手として選ぶべき先は、何らかの原因で経営困難に陥っている企業であり、CBCのような隆々としている企業は適切な対象ではありません。
第3の方法は、他社とジョイントベンチャーを組んで3にすると言うものです。キューバ国内には民間のバッテリー販売業者は存在しないと考えられるので、ジョイントベンチャーを組む相手として最有力なのは、キューバ市場へ参入しようとしているタイヤメーカーでしょう。おそらく、キューバ市場への参入を狙っているタイヤメーカーやバッテリーメーカー複数存在しているので、これらの企業間で全体的な協力関係を結び、その1社に加わると言う形が最も現実的なのではないかと思います。
ー結局、キューバ市場への参入で、最も重要なポイントは何でしょうか?
最大のポイントは、十分な流通チャネルを確保することです。
以上、回答例となります。
今回は、ケースのタイプ的には、新規市場参入シナリオ、マーケット・サイジングでした。
それでは。
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引用・編集:『戦略コンサルティングファームの面接試験 難関突破のための傾向と対策』
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